プロローグ

総論(1)   総論(2) エピローグ  各論  
 

マズルカはショパンの心と言われています。 ショパンは生前57曲のマズルカを10代から死の直前まで書き続けました。

ポーランド語に'zal という言葉があります。ジャールと発音するようですが、これはどの言語にも翻訳出来ない内容を含んでいるそうです。その含意するところは、悲しみ、憧れ、ノスタルジア、後悔、諦め、悔悟、腹立ち、だそうです。 よく知られているようにマズルカはポーランドの民族舞踊であり、故郷から遠く離れたパリに住みながら自分の思いを素直に表すのに最も適した素材だったからでしょう。

マズルカには小曲が多いのですが晩年の作にはいくつかの大曲が含まれ、自分の音楽表現を色々な方法で試みているのでショパンの音楽を知るのに最も適した研究対象なのです。マズルカの中にショパンのジャールが塗り込まれているのです。

マズルカの中、作品6から作品7、17、24、30、33,41,50、56,59,63までは生前に出版され、作品67と68は彼の友人フォンタナが遺稿を整理してまとめたものです。 また、作品41まではそれぞれ4曲がセットされていますが、作品50から63までは3曲のセットとなっています。ショパンはそれぞれをまとめて弾くことを望んだようです。各論を参考にしてください。

ところで、もう20年ほど前のことですが、遠藤郁子さんのマズルカ全曲の LP を買い、始めて全曲を通 して聴きました。そして何度も繰り返し聴きました。それまでもいくつかの曲を知っており、特にリパッティ(作品50の3)やカペル(作品56の3)の名演を聴いてこんな大曲もあるのだなという印象は持っていたのですが、そのほかにも珠玉 のような小品があり、楽しい踊りの曲、寂しく悲しい曲などそれぞれに実に特徴的、すなわちショパン的であることを知りました。

そこで、ショパンの使徒を自認する私は、この際私なりにマズルカ論をまとめて多くの音楽愛好家、特にピアノを嗜む方にマズルカの魅力を伝えようと考えたのです。 私は単なるアマチュアピアニストですから、演奏法を示すなどという大それたことは出来ません。また、音楽理論の上に立って解析する能力も持ち合わせていません。 しかし、ショパンの音楽をこよなく愛していることについては人後に落ちないつもりです。そしてショパンを弾いて、あるいは聴いてショパンの心に触れる喜びを多くの方に味わって頂きたいと願っているものです。

これから始まるマズルカ論は57曲を個々に分析するのではなくショパンの表現技術を分析し、それがどのように共通 的に使われているかを示そうとするものです。 すなわちマズルカの中で共通的な要素を取り出してショパンの音楽の魅力を探ろうとするものです。そしていくつかの側面 からの分析を元にこれらを総合して鑑賞する喜びを味わいたいのです。

始めに、ショパンがマズルカの中でどのような形式を取り上げたかを見てみます。 マズルカの特徴は何といってもリズムですので、それをよく見てみましょう。 ショパンは鍵盤の上で美しい美しい歌を歌いました。マズルカも例外ではありません。 そこで、まず伴奏について調べ、次にメロディーの特徴を示します。和音進行はメロディーと切っても切れない関係にあります。ショパンはマズルカの中で画期的な試みをしているのでとても興味深いのです。 そして話は必然的に和声、転調、対位法と進みます。マズルカの中には何でもあるのです。

まず総論から始めます。その後に作品番号順に各論を始めます。

これを読んで、聴いて、一つマズルカを聴いてみようか、弾いてみようかと思い立っていただければとても嬉しいです。

なお、マズルカの演奏法については下記の文献が大変参考になります:
山崎 孝:ショパン マズルカ、ムジカノーヴァ叢書ー12(音楽之友社、平成元年)