第15番 変ニ長調
ビューロー:雨だれ

コルトー:愛し子を揺すって眠らせる母、母自身も既に華胥の国、恐ろしい悪夢で我が子の運命を絞首台で終わると知る。あまりの驚きと悲しさに叫んだ自分の声に驚いて目を覚まし悪夢を追い払う。しかし母の心はまだ落ち着かない。

いわゆる雨だれの曲です。この曲をショパンがマヨルカ島で作曲したといわれていますが、それは正しくありません。この草稿を携えていって、マヨルカで仕上げたようです。ジョルジュ・サンドの手記が元となって雨だれという名前は後生に付けられたもので、ショパンの関知するところではありません。それによるとある日サンドがモーリスと一緒にパルマまで出かけたとき豪雨に見舞われ、漸くショパンのいるヴァルデモーザの僧院にたどり着いたとき、
「私たちが部屋にはいると彼はいすから飛び上がって『ああ、僕は君たちが死んでしまったと思った!』と叫んだ。正気に戻っていうには、自分たちの帰りを待ちながら座っていると、二人の身に危険が迫っていると考えている中に夢と現実との見境が付かなくなり、ピアノを弾くにつれて自分自身もまた死んでいると確信したのだという。彼は湖でおぼれた自分の幻影を見た。重たく、凍り付いた水滴が規則的なりズムで胸の上に落ちて来ると感じられたというので、私が実際に規則正しく屋根を打つ雨音を聞かせると彼はこれではないといった。」
その時ショパンが弾いていたのがこの曲であるという証拠はありません。 第1この話が本当かどうか疑わしいものです。ショパンが1847年6月8日に家族宛に書いた手紙に「・・・・(サンドは)時として本当のことを言わないことですが、作家というものはこうした点ではいくらか自由があるのでしょう・・・」という節があります。これが「雨だれ」のことを指しているかどうか定かではありませんが。
  *サンドたちとショパンは最初マヨルカ島の首都パルマでしばらく過ごした後、ヴァルデモーザの僧院に移り数カ月をそこで過ごしました。
天才と気違いは紙一重といいますが、ショパンはしばしば幻覚に悩まされたといいます。この時もそれに襲われたのでしょうか。


その話はさておいてこの曲は第13番と同様ノクターンですが、同じ音(変イ、後に異名同音の嬰ト)を8分音符で単調に繰り返して弾くのを聞くと、いわれてみればいかにも雨垂れの音を聞いているような気分になります(譜例1)。
 譜例1
   

ソプラノの4小節のフレーズが基幹のテーマとなっています。メロディーとしては単純平易ですが、それだけにこれをよく歌って行かねばなりません。これが繰り返された後、譜例2のフレーズが続きます。
 譜例2
    

そしてこれが繰り返された後始めのフレーズに戻ります。つまり前半が3部形式となっています。そして変イの音が鳴り続けながら中間部に入ります。
ここでは異名同音で嬰トとなり、右手は始めの7小節は単音、続く8小節がオクターブ、そしてこのシーケンスが繰り返されます。雨垂れの音にしては激しく鳴り響きます。 オクターブの部分ではまず譜例3に示すようにアルトにテノールのメロディーを強調するフレーズが入ります。
 譜例3
  

続いて譜例4に示すようにフォルティッシモで和音を形成します。
 譜例4
   

この8小節が繰り返された後譜例5に示すように右手にメロディーが移り、これが繰り返されて中間部を締めます。
 譜例5
  

後半では1の指で”雨だれ”を続けながら3または4の指でメロディーを奏でます。そして最初のフレーズに戻り、変イ音が続くコーダで終わります。

通俗化したとはいえ名曲であることには変わりありません。

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